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地味なテーマから見えてくる!?繁栄の裏に潜む現実とは…?

1月もあっという間に下旬が過ぎ、2月ももうそこまで近づいてきています。まだまだ寒さが続き、蛇口をひねると冷たい水が…。指先が凍るかと思ってしまうほどの冷たさに洗濯機や食洗機などの文明の発展に思わずありがたみを感じます。

前回は「洗濯船」をテーマに19世紀パリにおける洗濯事情をご紹介しました。この中で登場した「洗濯女」という用語を覚えていますか?文字から見て「洗濯する女性」というのは想像できるかと思います。実はこの用語、洗濯する女性に限って指しているわけではありません。
ヨーロッパでは16世紀頃から洗濯女という女性の職業がありました。特にパリにおける洗濯女は同業組合や協同組合に組織しているわけでもなく、低賃金・長時間労働で富裕層の洗濯を引き受ける仕事で、冷たい水での洗濯や熱気が伴うアイロンがけなどかなり過酷な労働だったとされています。

さて、彼女たちの働く姿がフランス絵画でも度々見られることを皆さんはご存知でしょうか?

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19世紀後半のフランス美術界における画家たちの視点は近代化されたパリや郊外、そしてそこに住む人々の暮らしに向けられていました。もっぱら労働者、踊り子、洗濯女といった名もなき人々や競馬場、劇場、カフェなどを舞台とする主題は絵画だけに留まらず、小説にも取り上げられるほど注目されていました。

下記は当館所蔵の《洗濯する女》(制作年不詳)という作品です。
作者はマクシミリアン・リュス(1858−1941)。彼はジョルジュ・スーラやポール・シニャックといった新印象派の画家たちと交流していた画家でした。
リュスはパリの情景を多く描き、とりわけ人物画においては労働者へ強い関心を向けていました。

リュス_洗濯する女

本作はタイトルにもあるように、洗濯する女性の姿が描かれています。
女性は桶の中の水をバケツのような入れ物に流し込んでいます。洗って汚くなった水を捨てるために移しているのでしょう。先ほどまで奥の作業台で衣類を洗っていたのかもしれませんね。
彼女が洗濯女かどうか詳しいことはわかりませんが、働く女性の日常の姿をよく観察し、的確に捉えていることが見られます。

図版でご紹介できないことが残念なのですが、同時代には画家エドガー・ドガが《アイロンをかける女たち》(1884/パリ、オルセー美術館蔵)という洗濯女たちの様子を描いた作品があります。過酷な状況下で働く彼女たちの姿がリアリティに描写されています。

近代化してゆく華やかな都市。しかし繁栄と発展の傍には人々の暮らしがあったことを忘れてはなりません。変貌するパリの光と影を画家たちは冷静な観察眼で表現していったのでした。

■ 諸橋近代美術館 西洋近代絵画担当 学芸員